少量多品種生産への対応や短縮する製品ライフサイクル、労働形態の変化、国際化への対応など、様々なトレンドの波により製造業は大きな変革の時期に直面しています。製造業がこれらのトレンドに対応する方法の一つとして、セーフティ通信を含む規格の更新や技術革新によって実現する、人とマシンの安全な共存があります。
従来のセーフティシステムは複雑な配線が一般的で、長距離に渡るケーブルの取り回しと何重にもなるケーブルの束によって、設計の複雑さと困難なトラブルシューティングが課題でした。そこで近年普及してきたセーフティネットワークは、これらの課題に対処するとともに、様々な安全機器とセーフティコントローラ間の高速でセキュアな通信を実現しました。さらにこの通信システムは、産業のIoT(IIoT)やインダストリー4.0が提唱するソリューションのキーファクターとなりました。
一般的な工場では、管理レベル(イーサネット)、制御レベル(産業用イーサネット)、デバイス/センサレベル(様々な技術)など、3段階から4段階以上の通信レベルが存在します。コントローラとデバイス間で用いられる産業用通信が一般的な制御システムとして普及するに連れ、これと同様のセーフティ通信ソリューションへの要求が大きくなってきました。
セーフティ通信のアーキテクチャは、最も普及している制御レベルのプロトコルに基づいており、同じ物理層で構成されます。そのため、制御構成や配線がシンプルになります。次の表では、一般的な制御レベルのセーフティ通信プロトコルとその“ベース”となる産業用イーサネット、管理する協会団体を示しています:
イーサネットベースの セーフティプロトコル |
ベースとなる産業用 |
協会団体 |
CIP Safety | Ethernet IP | Open DeviceNet Vendor Association (ODVA) |
PROFISafe | PROFINET | PROFIBUS and PROFINET International (PI) |
Fail Safe over EtherCAT (FSoE) | EtherCAT | EtherCAT Technology Group |
CC-Link IE Safety | CC-Link IE | CC-Link協会 (CLPA) |
openSAFETY | Ethernet POWERLINK | Ethernet POWERLINK Standardization Group (EPSG) |
これらイーサネットベースのセーフティプロトコルは、上位レベルのセーフティPLCや駆動系、CNC、HMI、モーションコントローラ、リモートセーフティI/Oなどと先進的なセーフティデバイスの間で、大量の情報を高速にデータ通信することができます。イーサネット自身はほとんどのユーザーにとって馴染みのある通信であり、これを基にしたセーフティプロトコルはオープンな規格で、多くのコントローラやデバイスのベンダーによってサポートされています。つまり、ユーザーは異なるベンダーのデバイスを組み合わせたシステムを構築することができます。しかし、唯一の欠点はデバイスが複数のプロトコルに対応することが困難なため、デバイスベンダーはそれぞれのプロトコルに対応したデバイスを用意しなければなりません。
デバイスレベルのセーフティプロトコルはまだ新しいため、大きな普及にまでは至っていません。しかし、これらは制御レベルで使用されるイーサネットベースのセーフティプロトコルの利点を引き継ぎながら、そのいくつかの欠点に対処しています。これらのデバイスレベルのプロトコルはイーサネットのプロトコルと同様に、様々なベンダーから提供される多種多様なセーフティデバイスを接続でき、配線やトラブルシューティングを簡素化し、従来の個別配線より多くのデータを収集することができます。欠点はイーサネットのプロトコルに比べて、低速で伝送できるデータ量も小さく、カバーできる距離が短いことです。逆に、デバイスが安価で接続部を物理的に小さくでき、IPアドレスの数に縛られることがないため、緊急停止スイッチやセーフティスイッチ、誘導型セーフティセンサ、シンプルなセーフティライトカーテンなど、小型で安価なセーフティデバイスを接続することができます。
デバイスレベルのセーフティプロトコル |
デバイスレベルの |
公開 / 未公開 | 協会団体 |
Safety Over IO-Link/IO-Link Safety* | IO-Link | 半公開 / 公開 | Balluff/IO-Link協会 |
AS-Interface Safety at Work (ASISafe) | AS-Interface (AS-I) | 公開 | AS-International |
Flexi Loop | 非公開 | Sick GmbH | |
GuardLink | 非公開 | Rockwell Automation |
* Safety Over IO-LinkはセーフティとIO-Linkを組み合わせた初めての技術です。IO-Link Safetyは仕様の公開が発表されましたが、2020年6月の段階で対応製品は発表されていません。
デバイスレベルのセーフティ通信に対する認識と必要性は、セーフティとオートメーションを一つの制御システムに統合したいという要望とともに高まっていくでしょう。これは次のようなニーズにより、さらに加速すると考えられます:
現在、多くのユーザーが包括的で費用対効果に優れたセーフティシステムの構築に取り組んでいます。しかし、彼らはイーサネットベースやデバイスレベルのセーフティプロトコルを導入するだけでは、要求するすべてのニーズに対応できないことに気づいています。そこで期待されているのが、セーフティ通信のゲートウェイです。このゲートウェイは、デバイスレベルのセーフティプロトコルを制御レベルのセーフティネットワークに接続し、安価なデバイスの接続とデバイスレベルのデータ収集を行い、データを上位レベルや制御システムに伝送します。
これを可能にした一例がPROFISafe/PROFINETに対応したSafety Over IO-Linkです。このシステムでは、セーフティライトカーテンや緊急停止スイッチ、セーフティスイッチなどのセーフティデバイスをSafety Over IO-Linkのプロトコルで通信する“セーフティハブ”に接続します。そして、このハブは“black channel”の技術を用いてPROFINET対応IO-Linkゲートウェイを経由し、PROFISafe PLCと通信します。セーフティデバイスの接続は標準的なM12コネクタケーブルを用いて簡単かつ安価に行えます。そのため、PROFISafe/PROFINETで使用される高価で高性能なケーブルはIO-Linkゲートウェイから上位の制御レベルだけです。そして、最も大きな特徴は制御用デバイスとセーフティデバイスの両方をPROFINET対応のIO-Linkゲートウェイに集約できることです。これにより、デバイスレベルのアーキテクチャが簡素化できます。
デバイスレベルと制御レベルのプロトコルを統合することで、費用対効果や通信速度の要求に対しバランスよいセーフティ通信のシステムを構築することができ、さらにIIoTが要求するデータを統合し、コントローラやMESシステムへ伝送することも可能となります。